突入電流は、電子機器にさまざまなリスクをもたらす現象とされています。特性上、突入電流をゼロにすることはできませんが、なるべくリスクを最小限に留められるよう、然るべき対策を講じる必要があります。
本記事では突入電流の基礎知識と主なリスク、対策方法について解説します。
突入電流の基礎知識
突入電流とは、電源を入れた際に定常電流よりも大きな電流が瞬間的に流れる現象のことです。定常電流とは、時間が十分に経過し、電流や電圧が一定の値になった定常状態中の電流のことです。初期段階では後述する理由により、流れる電流は定常電流より大きくなりますが、その後は次第に電流値が低下し、定常電流になっていきます。突入電流は必ず生じるものですが、定常電流との差が大きくなければさほど問題はありません。
ただ、突入電流と定常電流との間に大きな差が生じた場合、さまざまなリスクが生じることがあります。
大きな突入電流が発生する理由
大きな突入電流が発生する主な理由は大きく分けて2つあります。まず1つ目は、大容量の平滑コンデンサやデカップリングコンデンサが搭載されているためです。電源を入れた際にこれらを充電する必要があるため、一時的に大きな突入電流が流れる原因となります。これを一次突入電流と呼びます。
2つ目は、機器の起動に定常状態より大きな電力が必要となるため、一時的な突入電流が流れます。これを二次突入電流や起動電流・始動電流と呼びます。
突入電流で生じるリスク
定常電流より非常に大きな突入電流が生じた場合に考えられるリスクは3つあります。
1. 電子部品の破損
電子部品は、一般的に電流によって損傷が生じにくい設計になっています。しかし、定常電流を大きく上回る突入電流が流れると、熱によって部品が破損してしまう恐れがあります。部品が壊れると製品がうまく動かなくなる他、発熱により発火して火災につながる可能性もあります。
2. 電圧が不安定になる
電子回路に大きな電流が流れると、一時的に電圧が低下して他の機器が再起動や停止、誤動作といった不安定な状態になりやすい傾向にあります。
3. 保護機構の誤作動
電気機器の中には、安全性を保つため、万一の場合に電源が強制的に遮断される保護機構が備わっているものがあります。ヒューズやブレーカーがこれにあたります。定常電流を大きく超える突入電流が発生した場合、保護機構が誤認し、機器がシャットダウンしてしまう可能性があります。
突入電流の対策方法
突入電流の発生によるリスクを抑える突入電流防止回路を2つご紹介します。
NTCサーミスタを使う
NTCサーミスタとは、温度が上昇すると抵抗が下がる負の温度特性を持った電子部品のことです。温度が低いうちは高い抵抗で突入電流を抑える一方、定常電流になると温度の上昇によって抵抗が低下するため、電子の流れを妨害しません。
ただし、発熱によって温度が上昇した後は冷めるまで突入電流防止効果が弱まることに注意が必要です。
スイッチ切り替え
半導体スイッチを組み込んで突入電流を抑える方法です。電源を入れた直後は電流が抵抗へ流れ、ある程度時間が経過したらスイッチをオンにすることで、損失を減らします。
余計な損失を出さないところが利点ですが、スイッチなどを組み込む分、コストが割高になりやすいところがネックです。
突入電流によって生じるリスクと対策をチェックしておこう
定常電流を大きく上回る突入電流が発生すると、電子部品の破損や焼損、電圧の低下による誤動作、保護機構の誤作動などさまざまなリスクが生じる原因となります。特に電子部品の焼損については火災発生リスクにつながることもあるため、大きすぎる突入電流については何らかの対策を講じる必要があります。