現在、多くの電子機器には、スイッチング電源と呼ばれる方式の電源が使用されています。スイッチング電源は電力を変換するときのロスが少なく、また小型で軽量化を実現している点が特徴です。
本記事では、電子機器に欠かせないスイッチング電源の概要や、スイッチング電源を利用する場合のメリット・デメリットなどについて解説します。
スイッチング電源とは?
スイッチング電源とは、電子機器に欠かせない安定した直流を供給する電源装置(直流安定化電源)の一種です。電気には、直流と交流の2種類があります。それぞれの違いは以下の通りです。
電気の種類 | 特徴 |
直流(DC) | 流れる方向が一定の電気 |
交流(AC) | 流れる方向が周期的に変化する電気 |
発電所から一般家庭や工場に供給される商用電源は交流です。しかしほとんどの電子機器は、直流で動作する仕組みになっているため、交流から直流に変換する装置が必要になります。この装置が直流安定化電源です。
直流安定化電源は、主に以下の2種類があります。
- リニア電源
- スイッチング電源
ほとんどの電子機器に搭載されているのが、半導体の働きを利用したスイッチング電源です。ここからは、リニア電源とスイッチング電源の特徴や仕組みをご紹介しながらそれぞれの違いについて見てきましょう。
リニア電源の特徴・仕組み
リニア電源とは、主に以下の4つの部品で構成された電源のことを指します。
- トランス(変圧器)
- ダイオード
- コンデンサ
- レギュレータ(安定化回路)
リニア電源の歴史は長く、真空管が使われていた時代から広く利用されてきました。しかし半導体が発明されてからは、スイッチング電源が主流となっています。
リニア電源の仕組みは以下の通りです。
- 商用交流(商用電源の交流)の電圧をトランスで変換する
- ダイオードで交流から直流に変換する(整流回路)
- コンデンサで出力を安定させる(平滑回路)
- レギュレータでさらに平坦で安定した直流に調整する(安定化回路)
つまりリニア電源では、トランス、ダイオード、コンデンサ、レギュレータの順で商用交流直流へ変換しています。
リニア電源は後述するスイッチング電源よりもシンプルな回路構成のため使用部品点数が少なく、製造コストが控えめなのが特徴です。
しかしリニア電源には小型化・軽量化が難しいという課題があります。リニア電源はトランジスタの放熱対策のためにヒートシンク(放熱器)を取り付けなければならないからです。
スイッチング電源の特徴・仕組み
リニア電源の課題を克服するために開発されたのが、スイッチング電源です。スイッチング電源にはトランス、ダイオード、コンデンサといった部品に加えて、半導体によるスイッチング回路(素子)が搭載されています。
スイッチング電源の仕組みは以下の通りです。
- 商用電源を1つ目のダイオードにより、交流から直流に変換する(整流回路)
- 1つ目のコンデンサで直流電圧を安定させる(平滑回路、安定化回路)
- スイッチング回路により、整流した直流電流を周波数の高い交流に変換する
- トランス(高周波トランス)で電圧を変換する
- 2つ目のダイオードにより、直流に変換する(整流回路)
- 2つ目のコンデンサで出力電圧を安定させる(平滑回路、安定化回路)
- 出力された電圧が目標値から離れている場合は近づけるようにスイッチング回路を制御する(制御回路)
リニア電源とスイッチング電源の違いは、電圧変換と整流(交流から直流への変換)の順序です。リニア電源の場合、整流よりも先に電圧変換が行われますが、スイッチング電源では、先に整流してから電圧変換を行っています。その後、スイッチング電源は、スイッチング回路によって直流を再度交流(高周波)に変換しています。そしてスイッチング回路で交流に変換された電圧は、トランス・ダイオードで再度直流に整流・変換される仕組みです。もし最終的に出力された電圧が目標値と離れている場合は、制御回路によって調整されるようになっています。
なお、スイッチング回路は、スイッチング素子のオン・オフを高速で切り替えることで電流を交流に変換しています。また回路のサイズは扱う電圧の周波数が高くなるほど小型化できるため、高い周波数に変換するスイッチング電源では小型化・軽量化が可能になりました。
スイッチング電源を導入するメリット
スイッチング電源がリニア電源よりも広く普及した理由は、主に以下のようなメリットがあるためです。
- 変換効率が高く電力のロスが少ない
- 降圧だけでなく昇圧も可能
- リニア電源よりも軽量小型化が可能
それぞれのメリットについて説明します。
変換効率が高く電力のロスが少ない
1つ目のメリットは、スイッチング電源は変換効率が高く、電力のロスが少ない点です。
リニア電源は、スイッチング電源より発熱が大きいというデメリットがありました。電圧を変換する過程で電力のロスが発生し発熱してしまいます。また電子部品は熱に弱いため、使用できる電力量も制限されます。
一方でスイッチング電源は、リニア電源と比較して、電力のロスが少なく。発熱量が少ないです。大電流を回路に流せるため、ハイパワーな電源として活用できます。
降圧だけでなく昇圧も可能
2つ目のメリットは、降圧だけでなく昇圧もできる点です。リニア電源の場合、商用電源の電圧は基本的に下げる(降圧)ことしかできません。
一方でスイッチング電源は降圧だけでなく、電圧を上げる昇圧回路や電圧を反転させる反転回路を組み込めるので出力電圧を自由に変えられます。
リニア電源よりも小型化が可能
3つ目のメリットは、前述した通り小型化できる点です。リニア電源に使われているトランスは、放熱のためのヒートシンクが必要になる都合上、重くてかさばります。電源装置の小型化が難しいという課題がありました。
スイッチング電源のスイッチング回路トランスは、リニア電源のトランスよりも軽くて小さいという特徴があるので、持ち運びもしやすいという特徴があります。
スイッチング電源を導入するデメリット
スイッチング電源にはデメリットもいくつかあります。主に以下の2点です。
- 製造する際のコストが高い
- ノイズが発生しやすい
2つのデメリットについて説明します。
製造する際のコストが高い
1つ目のデメリットは、製造コストの高さです。
スイッチング電源は、使用する部品数がリニア電源よりも多く、回路構成も複雑です。そのため電源装置の製造コストが高くなる傾向にあります。
ただし、電源装置のトータルコストを確認する際は電気代も考慮する必要があります。前述した通り、リニア電源は発熱による電力の変換ロスが大きいのが課題です。出力する電力が大きいほど、電力の変換ロスも大きくなるため、結果として消費電力量が増加します。また熱に弱い電子部品を守るため、ヒートシンクを設置するといった放熱対策のコストもかかります。
消費電力量によってはスイッチング電源の方が電気代は抑えられ、トータルコストが低くなるケースがあることを認識しておきましょう。
ノイズが発生しやすい
2つ目のデメリットは、ノイズの問題です。
スイッチング電源は、半導体のスイッチングによって、回路を高速でオン・オフしています。その過程で微小な電気振動やノイズが発生するため、精密さが要求される機器にはあまり向いていません。計測器や医療用機器などのノイズが少ないことが望ましい電子機器の場合は、現代でもリニア電源が用いられています。
スイッチング電源の役割やメリット・デメリットを知ろう
スイッチング電源は電子機器に欠かせない直流安定化電源の一種で、リニア電源に代わって普及している装置です。回路構成はリニア電源より複雑ですが、そのぶん電力変換のロスが少なく、かつ小型化が可能です。